日本バスーン(ファゴット)協会設立の趣意とお誘い
10年程前になるでしょうか。
K.トゥーネマンが東京でマスタークラスを開いたおりです。
「ファゴット奏者は皆、家族の様なものだ。」と我々に言ったものです。
イギリスの奏者セシル・ジェームスも「バスーンは人気のある楽器じゃない。人々はこの楽器の事を良く知らないし、 音を聞いてもバスーンと分らない事がある。」などと宣うています。
我らの愛する楽器は、我々だけのコミュニティの物なのさって事でしょうか。
つまり、両氏は他の楽器に比して員数の少ない分仲良くやれるじゃないか、と言いたいのでしょう。 中川良平氏も電車の中でファゴットを持った人を見ると、変な小父さんと思われる危険を感じつつ声を掛けたくなると 何かに書いていました。なるほど、私にも良く分ります。
しかし、この楽器も大分増えてきました。
フルート、クラリネットに比べればまだまだとは言え、全体を把握するのはとても難しい。 トゥーネマンが言うようにファミリーなどとは、とても言えません。 その上三人寄れば派閥が出来る人間社会ですから、ジェノベーゼ、ガンビーノ、コロンボと言ったマフィアとは比べ物にはなりませんが、 (プロ、アマを問わず演奏、音楽上)甲論乙駁、相譲らずの小競り合い、小派閥乱立の様相は呈しています。
さりながら、ファゴットが好きと言う一点に絞れば誰もがファミリーに成れるのではありますまいか。 一般社会から眺めれば、同好の士は仲間と見られるのです。
論争は結構なれど意地の張り合い※1はそろそろお終いにしませんか。
個人的な葛藤はどの社会にも在りますが、それを乗り越えて集う場を持つ知恵を我々は持っている筈です。 これぞ民主主義。そうしないと全体のボトムアップを図れないからです。
ここに私はファゴットを愛する者として提案します。
日本バスーン協会(略称=JBS)を設立しようではありませんか。
プロもアマもなく、ファゴットが好きでもっと仲間を増やしたい、一緒に楽器や音楽の話がしたい人々の集団です。 一人では出来ない事も実現させられるかも知れません。 市井の人々が「ファゴット?ああ、あれは良いね。テレビの伴奏にも良く使われるね。」などと話の出来る日も来るかも知れません。 社会的に認知されると言うことです。S.ジェームスも吃驚。 うまく運営できれば、会費でファゴットの曲を依頼しレパートリーの充実も企れるでしょう。 (例えば、全国ファゴット・フェスティヴァルで千人のファゴットの為の組曲を演奏なんてね)。 他の楽器の協会と交流して思いも掛けないアイデアが出るかも知れません。 楽器自体の設計にも関係して、JBSモデルが生まれることも考えられます。 国内だけでなく、国際貢献も出来るかも知れません。途上国でファゴット希望者の夢をかなえてあげるなんて事もあるかも。 そして外国オーケストラ団員との交歓会、公開レッスンなども。
どうでしょう、一人でただふいている時より世界が広がると思いませんか。 勿論、機関誌を通して地方で困っている人達の役にも立ちます。 雑誌の記事は一方通行ですが対話をするようにファゴットの事が分る紙面を作りたいと考えています。 また、名簿を作成しますので、意外に近くに仲間を発見して一生の友となれるかも知れません。 商業ベースでは絶対に出来ない、しかし我々にとっては絶対に忘れてはならない日本ファゴット界の黎明から現在に至る期間の 演奏家とそのエピソードを綴る本を作りたいのです。 我々が作らないと先人の貴重な体験、教訓がそのうち雲散霧消して二度と手に入れることが出来なくなるでしょうから。
如何でしょう、多くの人々に参加して貰う事で以上の事が実現に向かうのです。 細かい事は走り出して見ないと私たちにも予測がつきません、なにせ初めてなのですから。 しかし、蒔かぬ種は永久に芽を出す事は無いのです。人によってはとりあえずのメリットは無いかも知れません。 でも何年か(もっとかも)経てば入って良かったと思えるのではないかと私たちは信じています。 こう言った活動を続けていく内に、個人的な趣味だった物が、それを越えた力と成るのではありませんか。(後略)